近年、熊・猪などの野生動物が市街地でも出没し、農作物の被害のみならず、人身被害にまで発展しているというマスコミ報道が増えています。恐らく以前から野生動物が出没する事例はあったはずですが、マスコミで話題となるようなことはほとんど無かったと感じます。近年になって、なぜ野生動物に人との関係がクローズアップされるようになったのでしょうか。

結論として、「近年になって」というのは少し語弊があり、人が農作物の収量を高めようと農耕地を求め、山間部間際まで開拓したはるか昔から野生動物との軋轢は起きており、以下のような経緯をたどって現代に至っています

【江戸時代】

江戸の人口増加に伴い生産量拡大のため、山地近くまで農耕地が開発されました。元々の動物の住処(すみか)にまで人々が進出して農村を形成したため、当然に軋轢が起こるようになりました。またぎが狩猟や罠などで山奥へと追い詰めます。それでも、動物が集落に降りてきては、再び駆除するということが繰り返されました。

【明治時代から昭和初期】

明治時代中頃に入り、動物を山奥へ封じ込めることに成功します。①薪炭需要の高まりで樹木の伐採が進み、住める環境ではなくなったこと、②毛皮などの入手を目的とした狩猟が盛んに行われていたことに原因があるとされます。さらに、道路・鉄道の敷設、戦時下の演習場設置など人の活動により、動物は集落に現れることが少なくなりました。

【戦後から現在】

昭和30年頃までは、動物のいる山奥と都市部である集落との間に、農村・中山間地帯が緩衝帯となって侵入を防いでいました。ところが、経済成長に伴う産業構造の変化は、農林業など第一次産業に従事する人を減少させ、住人が都市部へ転出し、地方は過疎化が進展しました。人手を無くした林や耕作地は荒れ、空き家も増えました。こうして侵入防止の緩衝帯としての機能を無くしていき、山奥へ追い詰めた動物が再び集落に現れるようになりました。

以上が人と野生動物との軋轢経緯となります。上記経緯に加え、近年の気候変動により山中の餌が不足していることなども要因としてはあると思われますが、人の拡大活動で追いやられた野生動物は、人がいなくなった農村部に戻り、さらに都市部まで進出していることが分かります。

かつて侵入緩衝帯であった農村部は過疎化が進展しています。まさに今、日本では少子化と都市部への人口集中、地方の過疎化に直面しています。農耕地が放棄され、空き家も増えている中で、ますます無人エリアは広がり、そこに野生動物が進出するのは当然といえるでしょう。野生動物が私達人間に警鐘を鳴らしてくれているのかもしれませんね。

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